流産とは、妊娠中に何らかの原因で22週より前に胎児が亡くなり、妊娠が終了することです。
流産は悲しいことですが、決してめずらしいことではありません。
医療機関で確認された妊娠の約15%、約6〜7人に1人が流産しています。
近年はSNSで流産についてさまざまな情報が得られるため、不安を感じている妊婦さんも多いでしょう。
今回は、流産しやすい行動、流産の種類、流産の確率、兆候を解説します。
妊娠中の方のみならず、妊活中の方もぜひ参考にしてみてください。
妊娠初期の流産しやすい行動
流産は、医療機関で確認された妊娠の約15%に起こり、流産全体の80%以上を妊娠初期が占めています。
妊娠初期でも、12週未満で起こる流産は早期流産、12週以降で起こる流産は後期流産と呼ばれます。
早期流産は受精卵自体に異常がある場合が多く、防ぐことは困難です。
後期流産でも原因不明の場合があり、完全に防ぐことはできませんが、母体側に原因があれば対処できる可能性があります。
ここでは、流産を防ぐために日常生活の中で注意したいことをまとめました。
過剰にカフェインやアルコールを摂取する
妊娠初期は、赤ちゃんの内臓、脳、神経系など人の身体の重要な器官が作られはじめる大切な時期です。
カフェインやアルコールは、赤ちゃんの未発達な臓器では代謝できず、成長に悪影響を与えるおそれがあります。
カフェインについては、妊娠中の女性がカフェインを摂りすぎることで、低体重や将来の健康リスクが高まる可能性があることから、世界保健機関(WHO)では、コーヒーを1日3〜4杯までにするよう呼びかけています。
アルコールについては、日本産科婦人科学会によると、以前は飲酒量について1日エタノール換算で約15ml(ビール350ml1缶程度)であれば胎児に影響はないと説明されていたが、現在は少量でも胎児性アルコール症候群(FAS)の発症リスクがあるとしています。
妊娠が判明したら、カフェインやアルコールの摂取は控えるようにしましょう。
カフェインは、コーヒーのみならず、紅茶や緑茶、エナジードリンク、チョコレートなどにも含まれ、さまざまなものから摂取する可能性があるため注意が必要です。
身体を冷やす
身体が冷えると血流が悪くなり、卵巣や子宮の働きの低下や、ホルモンバランスが乱れる原因になります。
卵巣の働きが低下すると、卵子が未熟な状態で排卵されることがあり、うまく受精できない可能性があります。
また、受精卵が着床するためには、子宮内膜が肥厚する必要がありますが、子宮の周りの血流が悪いことで、子宮内膜が十分に肥厚せず、着床しづらくなる可能性もあります。
血流を良くするためにも、妊娠中はおへそから下の下半身全体を温めることが大切です。
冷たい飲み物や食べ物は避け、ひざ掛けや靴下を利用し、身体を温めるようにしましょう。
ストレスを溜めこむ
妊娠初期は、身体の変化のみならず、ホルモンバランスが崩れることで心も不安定になり、ストレスを感じやすい時期です。
ストレスが溜まると、血流が悪化し胎児に十分な栄養が届かなくなったり、下腹部に力が入りやすくなり子宮を収縮させたりする可能性があります。
お母さんが抱えるストレスには、妊娠に関することのみならず、産後の育児に対する不安、対人関係、仕事などさまざまなことがあります。
適度な運動、休息、ストレスの元を遠ざけるなど、意識的にストレスを溜め込まないようにすることが大切です。
食事のバランスが偏っている
妊娠中は食べ物の好みが変わり、偏食になる方がいます。
とくにつわりがある時期は、においに敏感になり食べられるものが限られることが多いです。
赤ちゃんは胎盤が完成する妊娠16週目ごろまでは、胎嚢の中にある卵黄嚢から栄養を補うため、妊娠初期につわりで食べられないことは、赤ちゃんの成長には影響しません。
無理して食べると吐き気が強まったり、嘔吐したりする場合があるため、つわりの時期は無理せず食べられるものを食べましょう。
しかし、偏った食事は栄養不足や、反対に特定の栄養のみ過剰に摂取するおそれがあり、お母さんの身体に負担がかかります。
また、胎盤が完成し、お母さんから栄養を受け取るようになった際には、赤ちゃんの成長にも影響を及ぼすおそれがあります。
一般的に、つわりは妊娠5週目ごろから始まり、8〜10週目ごろにピークを迎え、10週目以降は徐々に症状が軽減し、胎盤が完成する16週目ごろには普段の生活が送れるようになる方が多いです。
体調が落ち着き食べられるようになったら、バランスのよい食事を摂るよう心がけましょう。
重い荷物を持つ
重い荷物を持つと、お腹に力が入ります。
子宮が圧迫され、収縮が誘発される可能性があり、流産のリスクが高まります。
分類ごとの流産の種類
流産は、妊娠22週未満で何らかの理由により妊娠が継続できないことを指します。
症状・時期・回数・原因・進行具合により分類され、それぞれに呼び方が異なります。
症状による分類
出血や腹痛など流産の兆候がなく、胎児が死亡し、子宮内に胎嚢が留まる流産を稽留流産と言います。
自覚症状がないため、妊婦健診の際に胎児の発育や心拍が確認できないことで分かります。
稽留流産は、その後自然に胎嚢が出てくる場合が多いため、処置をせず待つことがあります。
胎嚢が出てこない場合や出血、腹痛などの症状が続く場合には子宮内容除去手術をおこないます。
子宮の収縮が始まり、出血や腹痛を伴い、流産が進む状態のことを進行流産と言います。
進行流産が進むと、出血とともに胎嚢や妊娠組織が排出されます。
時期による分類
尿や血液の検査で妊娠反応が出たにもかかわらず、超音波検査で胎嚢が確認できない状態のことを化学流産と言います。
化学流産は妊娠5〜6週目ごろまでに起こります。
自覚症状はなく、妊娠したことに気付かないまま、生理が来る方が多かったのですが、近年は妊娠検査薬の精度の向上や、不妊治療中で生理予定日前後に、妊娠反応を確認する方が増えたため、化学流産に気付く方が増えています。
胎嚢確認後は、妊娠12週までの流産を早期流産、妊娠12〜22週までの流産を後期流産と言います。
早期流産の場合には、流産の手術をおこなうか、自然排出を待つかを、出血や腹痛、子宮の状態により医師が判断します。
後期流産の場合には、薬で子宮の収縮を促し、出産と同じように赤ちゃんと胎盤を排出します。
回数による分類
流産を2回繰り返すことを反復流産と言い、3回以上繰り返した場合には習慣流産と言います。
反復流産は約2〜3%、習慣流産は約1%の確率で起こります。
流産が2回以上続く場合には、不育症の可能性があります。検査や治療で今後の妊娠では無事に出産できる可能性があるため、医師に相談してみましょう。
原因による分類
原因による分類には、人工流産と自然流産があります。
人工流産は、人工妊娠中絶のことです。母体保護の目的で、母体保護法指定によりおこなわれます。
自然流産、人工妊娠中絶以外の流産のことを指し、手術の有無は関係ありません。
進行具合による分類
亡くなった胎児や胎盤などの子宮内容物が、子宮外に排出され始めている状態を進行流産と言います。
子宮が収縮し排出を促すため、痛みや出血を伴う場合があります。
進行流産は、状態により完全流産と不全流産に分類されます。
完全流産は子宮内容物がすべて子宮外に排出された状態を指し、不全流産は子宮内容物の排出は始まっているものの、一部が子宮内に留まっている状態を指します。
流産の確率
医療機関で確認された妊娠の約15%、約6〜7人に1人が流産しています。
流産する確率は、妊娠週数や年齢により異なるため、ここでは流産の確率について解説します。
妊娠週ごとの確率
流産全体の約80%が妊娠12週目までの妊娠初期に起こります。
妊娠週数ごとの流産する確率は、妊娠5〜7週が22〜44%、妊娠8〜12週が34〜48%、妊娠13〜16週が6〜9%です。
受精卵に染色体の異常があると、多くの場合で12週までに流産するため、妊娠13週を過ぎると、流産する確率は大きく低下します。
年齢ごとの確率
妊娠初期の流産の多くは、染色体の異常が原因で起こります。
高齢になるほど、卵巣機能や子宮機能が低下し、受精卵の染色体に重複や欠損などの異常が起こりやすくなるため、流産する確率が高まります。
厚生労働省が発表している母の年齢と自然流産率は、24歳以下で16.7%、25〜29歳で11.0%、30〜34歳で10.0%、35〜39歳で20.7%、40歳以上で41.3%です。
35歳を超えると流産する確率が急激に増加することがわかります。
流産の原因
流産の主な原因は、流産が起きた時期により異なります。
妊娠初期
妊娠12週目までの初期流産の主な原因は、染色体の異常です。
赤ちゃんは父親と母親から23本ずつ、合計46本の染色体を受け継ぎます。
受精卵が細胞分裂する際に、染色体の本数に過不足が生じる、一部が入れ替わる、消失するなど異常が起こると、正常に成長できなくなり、流産の原因となります。
初期の流産は赤ちゃん側に原因がある場合が多く、治療法がないため防ぐことはできません。
妊娠後期
妊娠13〜22週目までの後期流産は、赤ちゃん側に原因がある場合、お母さん側に原因がある場合、お母さんにも赤ちゃんにも異常がなく原因不明の場合があります。
お母さん側の原因には、子宮奇形・子宮頸管無力症・子宮筋腫・絨毛膜下血腫・絨毛膜羊膜炎、細菌感染、内分泌や血液凝固の異常などがあります。
流産の兆候
妊娠初期は、何も自覚症状がなく気づかない間に流産することもありますが、お腹の張りや痛み、出血など流産の兆候が現れる場合もあります。
兆候が現れたとしても初期流産は治療できないため、急いでかかりつけ医の診察を受ける必要はなく、安静にするしかありません。
また、妊娠初期は正常な場合でもこれらの症状が見られることがあるため、過度に心配する必要はありません。
不安を感じる症状があれば、検診の際に医師に相談してみてください。
子宮やお腹の痛み
流産の兆候では、生理痛に似た下腹部の痛みを感じる場合があります。
痛みの強さはギュッと絞られるような強い痛みや、生理痛よりも軽く少し気になる程度の痛みなど、人によりさまざまです。
出血
流産の兆候には出血があります。
出血の色や量は、おりものに血が混じる程度の少量の場合や、生理よりも量が多い場合、暗赤色の出血、真っ赤な出血など人によりさまざまです。
しかし、妊娠初期は流産以外にも異所性妊娠、着床出血、内診後の出血、絨毛膜下血腫、ポリープなどさまざまな理由で出血する場合があり、出血したからと言って、必ず流産につながるわけではありません。
妊娠初期の流産しやすい行動に関するよくある質問
最後に妊娠初期の流産しやすい行動に関するよくある質問をまとめました。
つわりがあると赤ちゃんは元気ですか?
つわりは妊娠によるホルモンバランスの変化が影響していると考えられていますが、まだはっきりとした原因はわかっていません。
一般的には妊娠5週目ごろから始まり、8〜10週目ごろにピークを迎え、10週目以降は徐々に症状が軽減します。
しかし、つわりは個人差が大きく、症状の重さや、終わるタイミングは人によりさまざまです。
妊娠初期はまだ胎動が感じられないため、つわりが急になくなると流産したのではないかと不安になることもあるでしょう。
しかし、正常な場合でもつわりを感じない日があったり、ある日突然つわりが終わったりする方もいます。
反対に、つわりがあっても、腹痛や出血が起こり流産する場合もあります。
そのため、つわりの有無のみで赤ちゃんが元気かどうかの判断はできません。
つわりの症状の変化のみで過度に心配する必要はありませんが、腹痛や出血など流産の兆候と思われる症状が現れた場合には医師に相談してみてください。
妊娠中にお腹をさすってはいけない理由は?
妊娠するとお腹の赤ちゃんを想い、無意識にお腹に触れることが増えるでしょう。
しかし、妊娠中にお腹をさすってはいけないと聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
お腹をさすると言っても、優しく触れる程度や、少し力を入れて押さえるようにするなど、人により捉え方が異なります。
妊娠中でもお腹に手の平を当て優しく触れる程度であれば問題ありません。
注意したいのは、皮膚が上下に動くほど力を入れてさすったり、お腹がへこむほど力を入れて押さえながらさすったりすることです。
強い力でお腹をさすると、子宮の収縮が起こり、張り、痛み、違和感を感じる場合があります。
とくに、切迫流産や子宮頸管が短いと診断された方やお腹が張りやすい方は、お腹に触れる際には力を入れないように注意しましょう。
胎児の障害はいつわかる?
胎児異常は妊娠全体の3〜5%の確率で起こります。
異常の程度は、生活に支障がないものから、命に関わる重篤なものまでさまざまです。
妊娠20週ごろにおこなわれる胎児スクリーニングでは、超音波検査で胎児に先天的な異常がないかどうかを検査できます。
出生前に異常を発見することで、赤ちゃんにとって最適な分娩施設や、適切な分娩時期、分娩方法を選択できます。
しかし、胎児異常の種類は非常に多く、出生前の検査でわかるものは約30%程度で、生まれてからわかる異常や、生まれてもすぐにはわからない異常のほうが多くあります。
胎児スクリーニングで見つけられる代表的な異常所見は、頭蓋骨欠損、脳室拡大、肺・心臓の圧迫、心腔・血管の異常、脈拍の異常、胃腸の拡張、腎盂の拡大、腸の脱出、脊椎の変形、大腿骨・上腕骨の短縮・変形などです。
妊娠10〜18週目ごろに受けられる赤ちゃんの染色体異常を調べる出生前診断もあります。
母体血清マーカー検査(クアトロテスト)は、お母さんの血液検査で胎児の21トリソミー、18トリソミー、開放性神経管奇形などの確率を算出します。
羊水検査は、羊水を採取し、染色体異常があるかどうかを調べます。
NIPTは、お母さんの血液検査で胎児の代表的な染色体異常である21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの検査をおこないます。
しかし、出生前診断の結果は100%正確なものではありません。
また、出生前診断ではわからない先天的な異常が、出生後にわかる場合もあります。
まとめ
今回の記事では、妊娠初期の流産しやすい行動や原因、確率について解説しました。
流産する確率は約15%で、その内の約80%が妊娠初期に起こります。
悲しさから自身をせめるお母さんもいるでしょうが、初期流産は染色体の異常が原因のため、お母さんの行動が影響しません。
初期流産は決してめずらしいことではなく、だれにでも起こる可能性があります。
流産の種類や兆候についての知識があれば、万が一の際にすぐに行動できるでしょう。
妊娠中の方のみならず、妊活中の方、パートナーの方もぜひ参考にしてみてください。
<参照>
不妊に悩む方への特定治療支援事業等の あり方に関する検討会
日本産婦人科医会
食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~