妊娠中にお母さんが食べたものは、胎盤を通じて赤ちゃんに送られるため、普段より食べるものに注意している方が多いのではないでしょうか。
妊娠中も普段と同じくバランスのよい食事を摂ることが大切ですが、お母さんと赤ちゃんの健康のために普段よりも意識して摂りたい栄養素がある一方で、避けたほうがよい栄養素もあります。
今回は、妊娠中におすすめの食べ物と避けるべき食べ物について解説します。
妊娠中の食べ物についてのよくある質問も紹介するため、妊娠中の方や妊活中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
【栄養素別】妊娠中におすすめの食べ物一覧
妊娠期間は約10か月あり、13週までが妊娠初期、14〜27週までが妊娠中期、28週〜出産までが妊娠後期と、大きく3つに分けられます。
妊娠初期は、つわりで食事が摂れない日が続いたり、偏食になったりするお母さんが多く、赤ちゃんが栄養不足になるのではないかと不安に感じることもあるでしょう。
しかし、妊娠初期の赤ちゃんは、胎嚢の中にある卵黄嚢から栄養を補給しており、お母さんが摂取した食べ物は影響しにくいため、無理に食べたり、過度に心配したりする必要はありません。
胎盤は妊娠16週目ごろに完成します。
個人差はありますが、妊娠16週目ごろになるとつわりが落ち着き、徐々に普段の生活が送れるようになります。
胎盤が完成すると、お母さんが食事から摂取した栄養素が赤ちゃんに送られるようになるため、妊娠中期以降は栄養バランスを考えた食事を意識することをおすすめします。
妊娠中に摂取したい栄養素は、鉄分、葉酸、カルシウム、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、亜鉛、食物繊維、タンパク質です。
それぞれの栄養素の役割や、多く含まれる食品について解説します。
鉄分:牛肉・あさり・カツオ
鉄は酸素の運搬に必要なミネラルです。
妊娠中は、胎盤や赤ちゃんを成長させるために血液量が増えたり、母体に蓄えられていた鉄が赤ちゃんに優先的に送られたりするため、普段よりも多くの鉄が必要です。
鉄が不足するとめまい、立ちくらみ、頭痛、息切れ、倦怠感、疲れやすいなどの症状が現れます。
赤ちゃんの発育不足や早産などの影響を及ぼす可能性もあるため、積極的に摂取したい栄養素です。
成人女性の鉄の摂取推奨量は1日当たり10.5mgですが、妊娠中期・後期には21.5mgが推奨されています。
鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があり、ヘム鉄のほうが体内での吸収率が高いです。
ヘム鉄を多く含む食品には、牛肉・あさり・カツオなどがあります。
可食部100g当たりの鉄の量は、牛肉2.8mg、あさり2.2g、カツオ1.9gです。
非ヘム鉄は野菜や牛乳、卵に含まれる鉄で、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収率が高まります。
葉酸:鶏卵・ブロッコリー・ほうれん草
葉酸は、ビタミンB群の1種で、細胞や血液を作る働きがあります。
妊娠初期に不足すると赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクが高まるため、妊娠してからではなく、妊娠を計画している段階から積極的に摂取したい栄養素です。
赤ちゃんの成長を促したり、お母さんの貧血を予防したりする役割があります。
成人女性の葉酸の摂取推奨量は1日当たり240μgですが、付加量として妊娠を計画している女性は1日当たり+400μg、妊婦は+240μgの摂取が推奨されています。
これだけの量を毎日食品から摂取することは難しいため、付加量分はサプリメントで補うことが推奨されています。
葉酸を多く含む食品は、鶏卵・ブロッコリー・ほうれん草です。
可食部100g当たりの葉酸の量は、鶏卵が49μg、ブロッコリーが220μg、ほうれん草が210μgです。
カルシウム:牛乳・ヨーグルト・大豆
カルシウムは、身体機能の維持・調節や、歯・骨を作る働きがあります。
妊娠中に不足すると赤ちゃんの発育に影響を及ぼしたり、お母さんの骨や歯がもろくなったりする可能性があります。
成人女性のカルシウムの推奨摂取量は1日あたり650mgで、カルシウムを多く含む食品は、牛乳・ヨーグルト・大豆です。
可食部100g当たりのカルシウムの量は、牛乳が110mg、ヨーグルトが120mg、大豆が180mgです。
ビタミンB群:豚肉・サンマ・モロヘイヤ
ビタミンB群は、ビタミンB1・ビタミンB2・ビタミンB6・ビタミンB12・ナイアシン・パントテン酸・ビオチン・葉酸の8種類の水溶性ビタミンの総称です。
ビタミンB群にはエネルギーの生成や代謝をサポートする働きがあり、不足すると疲労感、食欲不振、むくみ、便秘、神経炎などが起こる可能性があります。
妊娠中は普段よりもエネルギーが必要なため、ビタミンB群の必要量が増加します。
それぞれの成分が関わりながら体に働きかけるため、バランス良く摂取することが大切です。
妊婦の1日の推奨摂取量はビタミンB1が1.3mg、ビタミンB2が1.8mg、ビタミンB6が1.4mg、ビタミンB12が2.8μg、ナイアシンが11mgNE、パントテン酸が9mg、葉酸が480μgです。
ビタミンB群を多く含む食品には、豚肉、サンマ、モロヘイヤなどがあります。
ビタミンC:さつまいも・レモン・グレープフルーツ
ビタミンCには、免疫力の向上、皮膚・骨・血管を丈夫にする、鉄分の吸収を助けるなどの働きがあります。
妊婦の1日の推奨摂取量は、110mgです。
ビタミンCを多く含む食材には、さつまいも・レモン・グレープフルーツなどがあります。
可食部100g当たりのビタミンCの量は、さつまいもが29mg、レモン50mg、グレープフルーツが36mgです。
ビタミンD:サケ・しいたけ・しめじ
ビタミンDは、カルシウムの小腸からの吸収を促進し骨を作るサポートをしたり、血管や筋肉のカルシウム濃度を調節する働きがあります。
不足すると骨粗鬆症や骨軟化症の原因や、妊娠中の場合は早産・妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病などのリスクが高まります。
妊婦の1日の推奨摂取量は、12.5μgです。
ビタミンDを多く含む食品には、サケ、しいたけ、しめじがあります。
可食部100g当たりのビタミンDの量は、サケが32.0μg、乾燥しいたけが0.5μg、しめじが0.5μgです。
亜鉛:赤身肉・ナッツ
亜鉛は、タンパク質の合成に関わる栄養素で、生殖機能の老化防止や免疫力を高める働きがあります。
妊娠中に十分な量を摂取することで、細胞分裂が活発な胎児の成長をサポートする働きがあり、不足すると成長障害、骨格奇形、低身長、低体重のリスクが高まります。
妊婦の1日の推奨摂取量は、10mgです。
亜鉛を多く含む食品には、赤身肉やナッツがあります。
可食部100g当たりの亜鉛の量は、牛赤身肉が4.1mg、かぼちゃの種が7.7mg、アーモンド3.6mgです。
食物繊維:海藻・大豆・繊維質の野菜全般
食物繊維には、便通を整えたり、余分な脂質・糖質・ナトリウムを吸着して排出したりする働きがあります。
妊娠中に十分な量を摂取することで、胎児の代謝機能の発達を促す働きもあります。
妊婦の1日の推奨摂取量は、18g以上です。
食物繊維を多く含む食品は、海藻・大豆・繊維質の野菜全般です。
可食部100g当たりの食物繊維の量は、わかめが31.7g、大豆が21.5g、ごぼうが5.7gです。
たんぱく質:肉類全般
たんぱく質は、筋肉、臓器、血液、皮膚、髪、歯、爪など体のあらゆる部分を作るために必要な栄養素で、胎児の発育にも欠かせません。
妊婦の1日の推奨摂取量は、妊娠中期が60g、妊娠後期が75gです。
たんぱく質は、肉類に多く含まれます。
可食部100g当たりのたんぱく質の量は、鶏胸肉が21.3g、鶏もも肉が16.6g、牛赤身肉が21.3g、豚もも肉が20.5gです。
妊娠中に注意が必要な食べ物・飲み物
妊娠中はお母さんが食事から摂取した栄養が、胎盤を通して赤ちゃんに届きます。
普段、食べたり飲んだりしている食品の中には、赤ちゃんの成長や発達に影響を及ぼす可能性があり注意したいものがあります。
妊娠がわかったら避けたい食品と、食べることは問題ないけれど摂り過ぎに注意したい食品があるため、ここでは妊娠中に注意が必要な食べ物・飲み物について解説します。
食べ過ぎに注意すべき食べ物
食べ過ぎに注意すべき食べ物は、ビタミンA・ヒ素・塩分・ヨウ素・水銀を多く含む食品です。
ビタミンA:レバー・うなぎ
ビタミンAは、脂溶性のビタミンで、皮膚や粘膜を健康に保ち、免疫力を高める働きがあり、赤ちゃんの成長にも必要な栄養素です。
しかし、摂り過ぎるとお母さんには、頭痛・悪心・めまい・食欲不振・関節痛・皮膚の乾燥などの症状が、赤ちゃんには耳・頭蓋・眼球・肺・心臓などに先天異常が起こる可能性があります。
ビタミンAの1日の推奨摂取量は、妊娠初期と中期が650μgRAE、妊娠後期が730μgRAEです。
成人女性の1日の耐用上限量は、2,700μgRAEです。
通常の食事では過剰摂取になる心配はありませんが、ビタミンAを多く含む食品の過剰摂取や、サプリメントの使用で上限量を超える可能性があります。
ビタミンAを多く含む食品は、レバーやうなぎです。
可食部100g当たりの量は、豚レバーが13,000μg、鶏レバーが14,000μg、牛レバーが11,000μg、うなぎが2,400μgです。
ヒ素:ひじき
ヒ素は自然環境中にあるため、完全に避けることが難しく、さまざまな食品に微量のヒ素が含まれています。
通常の食生活での摂取で、健康に悪影響が生じたことを明確に示すデータは現在のところありませんが、短期間で大量に摂取した場合には、発熱・下痢・嘔吐・興奮・脱毛・皮膚組織の変化・がんの発生などが起こる可能性があります。
ヒ素を多く含む食品は、ひじきやわかめなどの海藻類です。
しかし、ひじきは食物繊維やミネラルなど妊娠中に必要な栄養素も多く含みます。
農林水産省の調査によると、ひじきを調理する際、水戻し後のゆでこぼしで、乾燥ひじきに含まれるヒ素を9割程度減らせることがわかっています。
水戻しのみでも5割程度、ゆで戻しで8割程度減らせるため、調理する際には、そのまま煮炊きせず、下処理してから調理してみてください。
塩分:調味料各種・外食
妊娠中は、ホルモンバランスの影響や、体内の水分量が増えることでむくみやすくなります。
塩分を摂り過ぎると、体内の塩分濃度を調節するために体内に水分を溜め込むため、余計にむくみがひどくなります。
厚生労働省では、妊婦の1日の塩分摂取量を6.5g未満としています。
調味料や外食は塩分を多く含むため、できるだけ控えるようにしましょう。
ヨウ素:昆布・出汁
ヨウ素は甲状腺ホルモンを合成するため必要な栄養素ですが、摂り過ぎると甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進性起こす可能性があります。
妊娠中に不足すると流産や死産のリスクが高まります。しかし、過剰摂取になると赤ちゃんの甲状腺機能が低下するおそれがあるため注意が必要です。
妊婦のヨウ素の1日の推奨摂取量は240μgで、耐用上限量は2,000μgです。
ヨウ素を多く含む食品は昆布や出汁です。
乾燥こんぶの可食部100g当たりに含まれるヨウ素の量は200,000μgです。
毎日こんぶを食べるとヨウ素の過剰摂取になりやすいため注意しましょう。
水銀:マカジキ・キンメダイ・マグロ
水銀は自然環境中に微量に存在しています。
大きな魚ほど蓄積する水銀の量が多い理由は、食物連鎖により水銀を取り込んだ小さな魚を大きな魚が食べるためです。
通常は、水銀を摂取しても体外に排出されるため、過度に心配する必要はありません。
しかし、胎児は胎盤を通じて取り込んだ水銀を体外に排出できないため注意が必要です。
妊娠中の水銀の過剰摂取は、赤ちゃんの中枢神経の発達に影響を与えるおそれがあります。
水銀を多く含む魚は、マカジキ・キンメダイ・マグロなどです。
これらの魚を食べる場合は、1週間で80gまでに留めましょう。
避けるべき食べ物・飲み物
カフェイン、アルコール、生物は赤ちゃんの成長に影響を及ぼすおそれがあるため、妊娠がわかったら避けるようにしましょう。
カフェイン:コーヒー・エナジードリンク
胎児は、肝臓機能が未熟なため、カフェインの代謝に時間がかかります。
長時間高濃度のカフェインにさらされることで、流産、発育不全、早産などのリスクが高まります。
妊娠中のカフェインの摂取量は200mg以下であれば問題ありません。コーヒーなら1日2杯程度、紅茶や緑茶は4杯程度を目安にしましょう。
エナジードリンクは商品によりカフェインの量が異なり、1缶当たり20〜240mg程度まであります。
1缶で1日の摂取目安量を超えるカフェインを摂取する可能性があるため注意が必要です。
アルコール:酒類全般
妊娠中のアルコールの摂取は、低体重、顔面を中心とする形態異常、脳障害など、胎児性アルコール・スペクトラム障害を起こす可能性があります。
胎児性アルコール・スペクトラム障害に治療法はなく、妊娠中にアルコールを摂取しない以外に予防する方法はありません。
生もの
生物は食中毒になるおそれがあります。
妊娠中に食中毒になり、下痢や嘔吐で脱水となると、流産や早産のリスクが高まります。
胎児に感染する食中毒もあるため、妊娠中は生物を避けるようにしましょう。
妊娠中の食べ物に関するよくある質問
最後に妊娠中の食べ物に関するよくある質問について解説します。
食べ物による赤ちゃんへの影響はありますか?
赤ちゃんは、お母さんが食事から摂取した栄養を胎盤を通じて受け取ります。
そのため、お母さんが食べた食べ物は赤ちゃんに影響を与えます。
つわりがあるときは食べなくてもよいですか?
一般的には、つわりは妊娠5週目ごろから始まり、8〜10週目ごろにピークを迎え、16週目ごろから徐々に軽減します。
胎盤が完成し、お母さんから栄養が送られるようになるのは妊娠16週目ごろです。
それまでは胎嚢の中にある卵黄嚢から栄養を補っているため、つわりがあるときには無理をして食べる必要はありません。
赤ちゃんが健やかに育つ食事量はどれくらいですか?
厚生労働省が発表している日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要によると、身体活動レベルが普通の女性が1日に必要とする推定エネルギー量は、18〜29歳が1,950kcal、30〜49歳が2,000kcalです。
妊婦は付加量として、妊娠初期+50kcal、中期+250kcal、後期+450kcalが必要です。
まとめ
今回の記事では、妊娠中におすすめの食べ物と避けるべき食べ物について解説しました。
妊娠中は胎児の健やかな成長のためにも、普段より多く必要になる栄養素がある一方で、胎児の成長に悪影響を与えるため、避けたほうがよい食品もあります。
しかし、あまり神経質になり過ぎるとストレスになる可能性もあるため、今の食生活を見直すことから始めてみてくださいね。