新型出生前診断(NIPT)のメリットとデメリット

出生前診断

新型出生前診断(NIPT)のメリットとデメリット

新型出生前診断(NIPT)のメリットとデメリット

新出生前診断(NIPT)とは、妊娠中からお腹の中にいる赤ちゃんの染色体疾患の有無を確認できる検査のことです。現在、出産年齢の高年齢化により、そうした疾患を心配して検査を受ける妊婦さんが増加しています。

新型出生前診断は、2013年4月より国内での臨床研究が始まり、2018年3月までに約6万人の妊婦さんが受けています。新型出生前診断は『採血』でできる検査なので、従来の出生前診断に比べて安全性が高いことやその検査精度も優れている点から、今注目を集めている検査です。しかし、メリットの多い新型出生前診断ですが、いくつかそのデメリットも指摘されています。

そこで今回は、その新型出生前診断(以下NIPT)のメリットとデメリットについて解説していきます。

新型出生前診断ではどんなことが分かるの?

新型出生前診断では、採血によって特定の先天異常がないかどうかを調べます。新型出生前診断で分かるのは、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーです。順番に解説していきます。

21トリソミー

21トリソミーは、いわゆるダウン症かどうかが分かります。21番目の常染色体異常によって起こる先天異常で、通常2本である染色体が3本ある状態を指しています。

知能の発達に遅れが見られたり、心臓や消化官に異常が見られたりするケースがあります。根本的な治療法がなく、社会的なサポートを利用しての療育が必要です。

18トリソミー

18トリソミーは、18番目の常染色体が3本ある先天異常です。比較的小さい体で産まれてくる傾向があり、筋肉が発達していない、泣き声が弱いといった特徴があります。

生後1週間程度で亡くなってしまう赤ちゃんがほとんどで、1歳まで生きられる子どもが10%です。しかし、障害を抱えながら生きている子もいます。

13トリソミー

13トリソミーは、13番目の常染色体が3本ある先天異常です。お腹の中であまり動きません。そして、産まれてくるときの体が小さい傾向があります。

治療法は存在しないため、1年以上生きる確率が10%ほどです。ほとんどの赤ちゃんが産後1ヶ月で亡くなってしまいます。

新型出生前診断(NIPT)のメリット

まず、新型出生前診断(NIPT)のメリットから見ていきましょう。メリットは大きく4つあります。

NIPTのメリット:①胎児の状態が分かる

まず、NIPTのメリット1つ目である“胎児の状態が分かる”ということです。上で述べたように、NIPTを受けることによって、妊娠中から胎児の染色体疾患がないかを調べることができます。

その染色体疾患の確率は、出産年齢が上がるにつれて高くなることがいわれています。以下はその年齢と染色体疾患の確率を表した表です。

出典:産婦人科 診療ガイドライン-産科編2014より作成(*妊娠12週を対象)

表では、主な染色体疾患である『ダウン症(21トリソミー)』『エドワード症候群(18トリソミー)』『パト―症候群(13トリソミー)』の3つの疾患を挙げており、横軸が妊産婦の年齢(20歳~40歳)、縦軸がその3つのトリソミーの発症率を示しています。

表を見て分かるように、年齢が上がるにつれて染色体疾患のリスクが高くなっています。

やはり、お母さんとして常に赤ちゃんの健康状態は気になるものです。そこで、このNIPTを受けることで、妊娠中から胎児の染色体疾患の有無を知ることができ、安心にもつながります。

NIPTのメリット:②妊娠中から事前準備ができる

次に2つ目のメリットである“妊娠中から事前準備ができる”ということです。

赤ちゃんの状態を知ることは安心することはもちろん、万が一疾患が見つかった際、妊娠中から事前準備ができることもメリットです。

もし疾患が見つかった場合、その疾患について調べてみたり、心の準備をすることで赤ちゃんを迎える準備ができます。
四元ら(2013)の研究NIPTの関するグループインタビューでは、「NIPTのメリットから、早期に分かることで胎児に対する愛着が生まれることで障碍との葛藤を避けたい」との思いも聞かれました。

確かに赤ちゃんに疾患が見つかったらショックは大きいかもしれません。しかし、妊娠中からその疾患と向き合い、また赤ちゃんへの愛着が徐々に生まれることで、乗り越えていこうという気持ちになります。

当院では、検査後のカウンセリングサービスも充実しているので、そうした妊婦さんの思いに寄り添ったサポートを提供しています。

NIPTメリット:③他の出生前診断に比べてリスクが低い

3つ目は、“他の出生前診断に比べてリスクが低い”ということです。

以下は、他の出生前診断とNIPTを比べた表になります。

非侵襲的検査
(非確定検査)
侵襲的検査
(確定検査)
検査名新型出生前診断
(NIPT)
コンバインド
検査
母体血清マーカー
検査
絨毛検査羊水検査
検査時期妊娠10週以降妊娠11~13週妊娠15~18週頃妊娠11~14週妊娠15~16週以降
検査方法採血採血+超音波採血お腹に針を刺す
リスクほとんどない流産・死産のリスクあり
約1%(絨毛)・約0.3%(羊水)

NIPTは『非侵襲的検査』の一つであり、“採血”のみでできるためリスクの低い検査です。

一方で、リスクの大きい『侵襲的検査』である『絨毛検査』や『羊水検査』は、“お腹から針を刺す”方法の検査なので、流産・死産の可能性があり、母子ともに負担の大きい検査です。(絨毛検査は膣から採取する方法もありますがどちらもリスクを伴います)

また、NIPTの検査時期は、他の出生前診断に比べて“妊娠10週”と早期にできるので、妊婦さんの負担が少ない時期から検査ができることもメリットの1つです。

さらに当院では、より検査精度の高いNIPTを採用しているため、1週早い“妊娠9週”から検査することが可能です。

NIPTメリット:④検査精度が高い

最後のメリットとして、“検査精度が高いこと”です。

上の表をもう一度ご覧下さい。リスクの低い非侵襲的検査にはNIPTの他に『コンバインド検査』や『母体血清マーカー検査』があります。

コンバインド検査の方法は、採血と超音波検査で行い、母体血清マーカー検査はNIPTと同じように採血で検査ができます。しかし、2つともその感度は80%台と、99%のNIPTに比べてその検査精度が低いのです。

このことから、NIPTは従来の非侵襲的検査の中でも“感度99%”と最も検査精度の高い検査なのです。

新型出生前診断(NIPT)のデメリット

次に、新型出生前診断(NIPT)のデメリットです。NIPTのデメリットは4つあります。

NIPTのデメリット:①逆に不安になる可能性

まず、デメリット1つ目の“逆に不安になる可能性”があるということです。

NIPTを受けることで、妊娠中から赤ちゃんの状態を把握できることは安心につながる一方で、染色体疾患が見つかった場合、逆にパニックになってしまったり、不安になるケースもあります。

日本産婦人科学会のNIPTの指針の中でも、“検査結果によって妊婦が動揺・混乱し、検査結果について冷静に判断できなくなる可能性がある”ことを懸念しています。そして、その一つの原因として“妊婦が十分な認識をもたずに検査が行われる可能性”を挙げています。

そこで、NIPTを実施するうえでは、そうした不安を軽減するために十分な知識を持った専門職によるサポートが大切です。当院では、豊富な知識を持つ医師・カウンセラーの下で、検査前後の無料遺伝カウンセリングサービスを提供しています。このカウンセリングはご希望があればどなたでもお受けすることができます。

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NIPTのデメリット:②確定診断が必要になる

2つ目は、“確定診断が必要になる”ということです。

日本産科婦人科学会のNIPTの指針において、
“NIPTは、母体血中のDNA断片の量の比から、胎児が13番、18番、21番染色体の数的異常をもつ可能性の高いことを示す非確定的検査である。診断を確定させるためには、さらに羊水検査などによる染色体分析を行う頃が必要になる”
と推奨されています。

NIPT検査はダウン症に対する感度は99%と検査精度は高いのですが、感度100%の確定検査である羊水検査や絨毛検査に比べその確実性は低いです。そこで、NIPTの検査結果で陽性が出た場合は、胎児の染色体疾患を確定するために、『羊水検査』や『絨毛検査』などの確定検査が必要になります。

そこで、そうした場合のサポート制度として、当院では、NIPT陽性判定後の羊水検査・絨毛検査費用の“全額負担サービス”を行っています。これは、検査を受ける妊婦さんの負担を少しでも軽減したいとの思いから実施している当院独自のサポートシステムです。

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NIPTのデメリット:③疾患の特定に限界がある

3つ目として、“疾患の特定に限界がある”ということです。

国内のNIPTの指針*では、NIPTを『ダウン症(21トリソミー)』『エドワード症候群(18トリソミー)』『パト―症候群(13トリソミー)』の3つの染色体疾患のみに限られています。(*日本医学会および日本産科婦人科学会などの指針に基づく規定より)

右の円グラフは染色体疾患の割合を示したものです。このことから、NIPTで主に特定できる3つの疾患は全染色体疾患の約7割になります。

そのため、残りの3割の疾患はNIPTでは調べることができません。*

そこで、NIPT陰性判定が出たとしても、出産後に3つの染色体疾患以外の疾患が見つかる可能性があります。

*しかし、これは『認定施設』のみに規定されている事項です。そのため、『認可外施設』では、3つの染色体疾患以外でも性染色体、全染色体、微小欠失などさらに幅広い検査が可能です。

また、NIPTは陽性的中率*:98.31%、陰性的中率*:99.99%と検査精度の差があることもデメリットに挙げられます。つまり、もし仮にNIPTで陽性判定が出たとしても、実は陰性であったということがあり得るということです。(*陽性的中率:検査で「陽性」になった人の中で、実際に遺伝子変化がある割合/陰性的中率:検査で「陰性」になった人の中で、実際に遺伝子変化がない割合)

このことから。NIPTは検査ができる染色体疾患が限られていることや、その検査精度に限界があるというのが現実です。

NIPTのデメリット:④命の選別になる可能性

さいごに、デメリット4つ目として“命の選別になる可能性”があるということです。

NIPTは、国内では2013年から使用が始まり2018年3月までに約6万人の妊婦が受けました。そして、検査で胎児の染色体異常が確定した約900人の妊婦のうち約8割が人工妊娠中絶を選択したということが分かっています。(日本経済新聞より)/p>

そのため、検査による胎児の命が選別されてしまっているのではないかと指摘されています。これは、出生前診断が始まった1970年代頃から長く議論されている倫理問題です。

また、人工妊娠中絶について、母体保護法では以下のように規定されています。
“①妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの”
“②暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの”

そのため、法律上は“胎児側の問題”では中絶できないとされています。

しかし、中絶を選択する方は様々な複雑な思いを抱えてその決定をしていることも事実です。そのため、NIPTを受ける際は、しっかりとした知識をもち検査を受けた後のことについてもよく考えておくことが大切です。

まとめ

以上でNIPTのメリットとデメリットについて解説していきました。

NIPTは採血のみでリスクがほとんどない検査です。また、検査を受けることで、胎児の状態を知ることができるため安心ができたり、また疾患が見つかったとしても事前準備ができるというメリットがあります。

しかし、検査を行うことで逆に不安になってしまったり、NIPTは検査精度の限界も指摘されています。また、検査後に疾患が分かった場合に、産むか産まないかの命に関わる問題になる可能性があるのも事実です。

そこで、それらの検査のメリット・デメリットについてよく考えたうえで、選択していくことが大切です。

なお当院の認定遺伝カウンセラーによるカウンセリングサービスは、NIPTに関わる情報提供や、様々なお悩みについてご相談できますのでお気軽にお問い合わせください。

*キーワード:新出生前診断 メリットとデメリット

【参考文献】

・公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会 母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針
http://www.jsog.or.jp/uploads/files/news/NIPT_shishin_20190622.pdf
・(1)佐々木愛子,佐合治彦ら:日本における出生前遺伝学的検査の動向1998-2016,日本周産期新生児医学会雑誌 2018;54:1010-107
・四元ら,無侵襲的出生前遺伝学的検査(non invasive prenatal genetic testing :NIPT)に関するフォーカス・グループインタビュー
・出生前診断:昭和大学医学部産婦人科学講座(関沢明彦)
http://jsog.umin.ac.jp/70/jsog70/2-1_Dr.Sekizawa.pdf
・日本経済新聞 新出生前診断、開業医も可能に 学会が条件緩和
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41974360S9A300C1MM8000/

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